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映画狂いが移るブログ 黒澤明「天国と地獄」

 

天国と地獄 [DVD]

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 黒澤明監督作品の中では、この作品と「七人の侍」が最も映画的魅力に満ち溢れている。特にこの「天国と地獄」は、前半は密室劇で、三船敏郎演じる権藤が誘拐犯人に身代金を払うまでの苦悩と相克が、シェークスピア劇に通じるかのように緊迫感溢れる演出で描き、後半は仲代達矢たち刑事たちと山崎努演じる犯人との壮絶な追跡劇が描かれており、さらには、前半と後半をつなぐ身代金支払いの場面に特急こだまの車窓からお金を落とすという秀逸なクライマックスを据え置き、1秒たりとも目が離せない「これぞ映画の醍醐味!」という完璧な構成になっている。自分の子供ではない、運転手の子供のために、自分の会社での地位を脅かしかねないなけなしの金を払うべきか悩む権藤のぎらぎらした人間像を三船敏郎が渾身の演技で演じており、ラスコリー二コフ的な犯人竹内を演じる山崎努の虚無的な存在とは対照的に描かれており、タイトルが象徴する「天国と地獄」のテーマを黒澤は見事に映像化している。子供を誘拐し間違えてても、ぬけぬけと権藤に身代金を要求する犯人の怖さ、権藤の苦悩に同情し、犯人の逮捕に異常なまでの執念を燃やし、死刑にしようと追跡する戸倉警部以下刑事たちの鬼気迫る追跡劇(仲代達矢がいい!)、特に黄金町の酒場で犯人が麻薬を売人から受け取る場面から犯人逮捕までの手に汗握るスリリングな演出、逮捕された犯人が権藤と拘置所で対峙する場面の叫びだしたくなるような緊迫感は、黒澤明の真骨頂で、いまだこの作品を超える衝撃はまだない!刑事たちのテーマというべきか、佐藤勝の音楽もセンセーショナルで、この映画の緊迫感をさらに高めている。犯人発見につながる重要な場面に、初めてのカラー映像を効果的に使っているのも見逃せない。傑作!!