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映画狂いが移るブログ 黒澤明「悪い奴ほどよく眠る」

 

悪い奴ほどよく眠る [Blu-ray]

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 汚職に社会的メスを切り込んだ黒澤明監督の問題作であり、「天国と地獄」同様、黒澤現代劇の傑作である。

 

かつて自分の父親を自殺に追い込んだ公団の重役である森雅之に復讐するために、復讐の鬼と化し、彼の愛娘である香川京子と結婚をしてまで、その思いをとげようとする西幸一を三船敏郎が快演!その復讐鬼ぶりは、はたから見ると異常なまでの執念である。「天国と地獄」での仲代達矢演じる戸倉警部と言い、この西と言い、黒澤明が描く「執念」を燃やしターゲットを追い詰めていく登場人物の描き方は凄まじいものがある。それだけ、黒澤の怒りの分身がのりうったかのようである。しかし、この映画は単なる復讐譚でない。いつのまにか、復讐に利用するために結婚をした香川京子への愛情に苦しむ西のシェークスピア的な人間の相克をもきちんと描いており、極めて深みのあるドラマともなっているのだ。一度は悪に手を貸したが西と話すうちに西に同情心を示していく藤原釜足、西の友人で西の理解者である加藤武(素晴らしい好演!)など、脇の登場人物たちも極めて忘れがたい輝きをもって描かれている。黒澤明の演出力の真骨頂である。この映画が、さらに素晴らしい魅力を感じるのは、佐藤勝の音楽である。三船敏郎が口笛を吹くその哀切なメロディがやがて作品のテーマ音楽ともなって繰り返し流されていき、観客の想像力を膨らませてくれる。作品のタイトルが象徴的であるように、結局は、悲劇的な結末を迎える西のショットに重厚に流れるこの音楽は絶品だ。無常観あふれる皮肉なラストシーンは、ご都合主義にとらわれない黒澤監督の精一杯のメッセージとも受け取られ、このテーマは50年以上経過した今の社会でも、改善されていない。社会と政治の腐敗は、いったいなくなることがあるのだろうか?!